睡眠時無呼吸症候群(閉塞性睡眠時無呼吸症候群)について
「いびきをかく」、「熟睡感がない」、「夜中に何回も目が覚める」、「日中に頭がさえない」、「睡眠中に呼吸がとまっていることを指摘された」など、心当たりはありませんか?
心当たりのある方は、睡眠時無呼吸症候群の可能性があります。
睡眠時無呼吸症候群は、以下の3つに分類されます。
- 閉塞性...上気道の閉塞によるもの
- 中枢性...中枢神経にある呼吸中枢の機能異常によるもの
- 混合性...閉塞性と中枢性の混合によるもの
睡眠時無呼吸症候群の患者さんの多くが、「1.閉塞性」であるため、今回は閉塞性睡眠時無呼吸症候群について解説していきたいと思います。
閉塞性睡眠時無呼吸症候群(OSAS)とは
閉塞性睡眠時無呼吸症候群(OSAS: Obstructive Sleep Apnea Syndrome)とは、様々な要因で就寝中に上気道が閉塞し(図1)、気流の停止、無呼吸・低呼吸を繰り返し、睡眠が障害されることで、様々な合併症(心疾患、脳血管障害、高血圧など)を伴う疾患のことです。
有病率は、OSASの定義によってばらつきはありますが、概ね、下記の通りです。
OSASの有病率
男性 | 女性 | |
---|---|---|
30~40歳 | 10% | 5% |
50歳以上 | 10~20% | 10% |
70歳以上 | 20%以上 | 10%以上 |
30歳代でも男性は10人に1人、女性は20人に1人がOSASと言われております。
70歳以上になると男性は5人に1人以上、女性は10人に1人以上と、加齢にともない有病率が上昇することが分かっています。
睡眠時無呼吸症候群を放置してはいけない理由
閉塞性睡眠時無呼吸症候群(OSAS)は放置すると寿命が縮まることが分かっています。
1988年に学術雑誌CHESTでJ. Heらのグループ(カナダ)が、385人のOSASの患者を解析したところ、1時間あたりの無呼吸が20回以上認めたOSAS患者の生存率は、8年後に63%まで低下していました。
つまり、「治療を行わなかったOSAS患者(※1時間あたりの無呼吸回数>20回)の3人に1人以上が8年以内に死亡した」という衝撃的な事実が判明したのです。(図2)
その後の研究で睡眠時無呼吸症候群の患者は、以下の通りさまざまな疾患と密接に関連していることがわかってきました。
OSAS患者では、
- 突然死の原因となる心筋梗塞・不整脈などの心疾患や、脳梗塞・脳出血などの脳血管障害を来す危険性が高まる。
- 高血圧や糖尿病を発症する可能性が高まる。
※とくに糖尿病は、心疾患や脳血管障害のみならず、糖尿病性腎症(人工透析の原因で最多)や糖尿病性網膜症(失明に繋がります)の原因にもなります。
また、睡眠の質の低下により、日中の眠気や集中力の低下を来します。
→これらは、例えば、運転中の事故や仕事上のミスに繋がります(図3)。
以上より、睡眠時無呼吸症候群は早期発見、早期治療が重要であることがわかります。
まず、ご自身で簡単にできるセルフチェックとしては、以下のSTOP-Bang 質問表があります。
下記の項目のうち、3つ以上当てはまれば睡眠時無呼吸症候群の可能性が非常に高くなる (70%以上)とされています。
STOP-Bang 質問表
- 大きないびき
- 日中の眠気や疲労
- 睡眠中の無呼吸を指摘されたことがある
- 高血圧である
- 肥満である
- 50歳以上である
- 男性である
- 首まわりが40cm以上ある
その他の症状として、以下が挙げられます。
- 起床時の頭痛
- 熟睡感がない
- 夜間睡眠中によく目が覚める
- 夜間に何度もトイレにいく(夜間の頻尿)
主な検査・診断方法と治療法について
上記の症状を問診で確認し、診察を行った上で以下の「簡易無呼吸検査」や「終夜睡眠ポリグラフ検査」を行います。
無呼吸・低呼吸の頻度、呼吸努力による覚醒の頻度を測定することで診断します。
簡易無呼吸検査
鼻の気流、いびき音、パルスオキシメーターによる動脈血酸素飽和度の3項目を終夜連続して測定します。
一般的に睡眠時無呼吸症候群のスクリーニング検査として行います。
終夜睡眠ポリグラフ検査(PSG検査)
簡易呼吸検査の測定項目に加えて、脳波、眼球運動、顎筋電図、睡眠中の体位などを測定します。
簡易無呼吸検査で睡眠時無呼吸症候群が疑われた場合に行う精密検査です。
治療法について
1時間あたりの無呼吸・低呼吸の合計回数を「AHI」と呼びます。
このAHIの値によって下記の図のように治療法が異なってきます(図4)。
CPAP療法
CPAP療法は世界的にOSASの治療の第一選択です。
CPAP療法を正しく行うことで、心疾患や脳血管障害を来す危険性を低下させ、睡眠の質を改善させることができ、健康寿命の延長につながります。
日本では以下の場合に保険適応となります。
- 簡易無呼吸検査:AHI ≧ 40回
- PSG検査 (精密検査):AHI ≧ 20回
保険適応でCPAP療法を行う際は、簡易検査による基準は幾分厳しいため、簡易検査で「40回 > AHI ≧ 5回」の場合は、積極的に精密検査であるPSG検査を行います(簡易検査ではAHIが過小評価されている可能性があります)。
具体的なCPAP療法ですが、図のように「鼻タイプ」または「口鼻タイプ」のマスクを装着し、機器を通してマスクから空気を送り込み、気道を開通させることで気道閉塞を防ぎます(図5)。
CPAP療法は、一晩あたり4時間以上行うことが重要です。
また、他の療法 (減量、口腔内装置、体位療法など)と組み合わせる集学的治療も重要です。
CPAP療法が適応でない患者さんに対しては、減量指導、口腔内装置、体位療法などを組み合わせることになります。
最後に
OSASをはじめとした睡眠時無呼吸症候群は、有病率が高く、放置すると健康寿命を著しく低下させる可能性がありますので、早期発見・早期治療が重要です。
当院では、睡眠時無呼吸症候群に対する診断・治療に力を入れておりますので、気になる症状をお持ちの方は、お気軽にご相談ください。