気管支喘息について
気管支喘息は、空気の通り道である気道の慢性的な炎症を本態とし、変動性を伴った気道の狭窄で特徴づけられる疾患とされています。
症状としては、季節性(花粉飛散時期)や日内変動性(夜間や朝方)のある咳・喘鳴(ヒューヒュー)・息苦しさ・痰などを呈します。
典型的な症状
- 咳、喘鳴(ヒューヒュー)、息切れ、息苦しい、痰
- 夜間・就寝中や朝方に悪くなる
- 風邪、ハウスダスト、花粉、天候の変化、冷気、強いニオイなどが原因で症状が出る
日本の統計では、成人において『過去1年間の間に喘息症状があった』人の割合は10%程度とされており、非常に多いことがわかります。
また、喘息で亡くなられる方の人数は1990年代では年間6000人前後であったのが、治療の進歩(後述)により2019年には1480人にまで減少しました。
ここで重要なことは、喘息は、正しい治療を行わないと命に関わる病気であるということです。
また、喘息を放置し、正しい治療が行われないと、気道の不可逆的な構造変化(リモデリングといいます)および気道狭窄(気道が細くなること)、呼吸機能低下を来し、咳、喘鳴(ヒューヒュー)、息切れなどの症状が出やすくなり日常生活に支障を来すようになります。
アトピー型喘息と非アトピー型喘息について
次に、喘息の病態は、アレルゲンがはっきりしている「アトピー型喘息」と、明らかなアレルゲンがない「非アトピー型喘息」があります。
※アトピー素因:ダニ、ハウスダスト、花粉、カビ、動物(イヌ・ネコ)などの様々な環境アレルゲンに対して過敏な体質のこと。
医学的には、アレルギー症状の原因となるIgE抗体という抗体を産生しやすい体質のこと。
小児喘息のほとんどは、「アトピー型喘息」であり、成人喘息でも過半数が「アトピー型喘息」とされています。
しかし、裏を返せば、成人ではアレルゲンがはっきりしない「非アトピー型喘息」も多いことが特徴的であり、いわゆるアトピー体質でない方も喘息を発症しますので、注意が必要です。
※診断のために、まずは問診や血液検査でアトピー素因を確認します。
好酸球性気道炎症について
ここで、気管支喘息は、「空気の通り道である気道の慢性的な炎症が本態である」と前述しましたが、具体的には気道の慢性炎症に関しては、『好酸球性気道炎症』が主体となります。
この『好酸球性気道炎症』は、アトピー型喘息、非アトピー型喘息のいずれの病態においても認められ、喘息診療で最も重要な概念です。
喘息の検査・治療は、この『好酸球性気道炎症』の有無をもとに組み立てていきます。
『好酸球性気道炎症』の有無を的確に判断し、『好酸球性気道炎症』をうまく制御することが、私たち呼吸器専門医の腕の見せ所となります。
※ただし、喘息は『好酸球性気道炎症』以外の機序によるものもあり、症状・各種検査結果を総合的に判断して診断します。
「咳がとまらない」「咳が長引く」「咳止めを飲んでいる」「喘息と言われたことがある」など、心当たりのある方は、お早めにご相談ください。
気管支喘息での主な検査
血液検査
血中の好酸球数やIgE値などを測定し、『好酸球性気道炎症』やアトピー素因の評価を行います。
アトピー素因が疑わしい場合は、環境アレルゲン(ダニ、ハウスダスト、花粉など)のチェックも行います。
胸部レントゲン
咳、喘鳴(ヒューヒュー)、息切れといった症状は、喘息以外の病気である可能性があります。
例えば、肺癌、肺気腫、心不全、気胸などでも喘息に似た症状がでますので、それらの病気の有無を胸部レントゲンで確認します。
呼吸機能検査
最大限息を吸った後、息を勢いよく吐いたときの1秒間に吐ける量(FEV1)を測定します。
同時に努力肺活量(FVC)も測定します。
喘息の方は気道の狭窄を来しているため、FEV1およびFEV1/FVCの低下を認めることがあります。
呼気中一酸化窒素濃度(FeNO)測定
呼気中の一酸化窒素濃度(FeNO)を測定します。
FeNOは『好酸球性気道炎症』と関連しています。FeNOが上昇していれば、『好酸球性気道炎症』を来している可能性があり、喘息の可能性が高まります。
喘息症状があった場合、FeNO ≧ 22 ppbであれば喘息の可能性が高く、FeNO ≧ 37 ppbであれば喘息と考えてほぼ間違いありません。
喘息の管理目標と治療法
喘息の管理目標
- 症状のコントロール
- 経時的な呼吸機能低下の抑制
- 喘息関連の死亡リスクを低下させる
- 治療による副作用を最小にする
喘息の治療法について
喘息の管理目標を達成するために、日本喘息学会では「喘息予防・管理ガイドライン」に則って、以下の4つのステップに応じた治療を推奨しています。
吸入ステロイド
喘息治療において最も大切なキードラッグです。
喘息の本態は、慢性的な気道の炎症 (『好酸球性気道炎症』が多い)であるため、治療の主体は吸入ステロイドとなります。
ステロイドには強力な抗炎症作用があり、このステロイドを吸入することで気道の慢性炎症を抑え、喘息をコントロールします。
ステロイドと聞いて副作用を心配される方もおられるかもしれませんが、喘息治療に用いる吸入ステロイドは主に気道に作用し、全身への影響は軽微とされています。
ただし、吸入後に「うがい」をすることで口腔内や喉に付着したステロイドを取り除き、口腔内カンジタを予防することが必要です。
LABA(長時間作用性β2刺激薬)
もっとも使用頻度の高い気管支拡張薬です。
吸入することで気管支を拡張させ喘息症状を改善させます。
喘息治療において単独での使用は禁忌とされており、吸入ステロイドと併用する必要があります。
吸入薬として使用します。
副作用として頻脈、動悸、不整脈などが生じる可能性がありますが、健康上大きな問題になることは稀です。
LAMA(長時間作用性抗コリン薬)
LABAとは違う機序(抗コリン作用)で気管支を拡張させます。
COPD(肺気腫)で最も使用されている吸入薬ですが、近年、気管支喘息に対しても症状の改善、呼吸機能改善に寄与することが示されています。
吸入薬として使用します。
閉塞性隅角緑内障、前立腺肥大症による排尿障害のある方にはそれらを悪化させる可能性があるため、原則使用しないこととされています。
LTRA(ロイコトリエン受容体拮抗薬)
体内でアレルギー反応を引き起こすロイコトリエンという物質が、気管支にあるロイコトリエン受容体に結合することで気管支を収縮させ喘息を引き起こします。
LTRAはロイコトリエン受容体に結合することで、ロイコトリエンの働きを阻害し喘息症状を改善させます。
飲み薬として使用します。
アレルギー症状全般に効果が期待でき、アレルギー性鼻炎などを合併している場合に適しています。
生物学的製剤
高用量の吸入ステロイドに加え、LABA、LAMA、LTRAの2剤を使用しているにも関わらず、喘息のコントロールが悪い場合に使用する抗体薬です。
定期的(2~8週間おき)に皮下注射することで効果を発揮します。
以下の5種類が保険適応となっています。
- ゾレア(抗IgE抗体)
- ヌーカラ(抗IL-5抗体)
- ファセンラ(抗IL-5R抗体)
- デュピクセント(抗IL-4/13R抗体)
- テゼスパイア(抗TSLP抗体)
血中好酸球の値、血中IgEの値、喘息以外の背景疾患を考慮した上で使用薬剤を決定します。
薬価が高いため、さまざまな医療費助成制度(高額療養費制度、指定難病、ひとり親家庭等の医療費助成など)を利用しながら継続する場合が多いです。
※詳しくは診察時にご説明致します。
吸入器の種類と特徴について
吸入ステロイド、LAMA、LABAに関しては吸入器を使用します。
吸入器には様々な種類がありますが、当院では主に以下2種類の吸入器のうち1つを、その方に合わせて処方しています。
エリプタ吸入器
ドライパウダー状の薬剤を吸入します。
エリプタ吸入器のメリット
- 吸入回数が1日1回1吸入でOKであることが最大のメリットです。
- 「ふたを開ける→吸入する→ふたを閉める」の3ステップで操作が簡単です。
エリプタ吸入器のデメリット
- 吸入する力が弱いご高齢の方は、十分に吸入できない可能性があります。
- かすれた声(嗄声:させい)になることがあります。
日本喘息学会のHPで吸入方法が公開されています。
日本喘息学会
加圧式定量噴霧式吸入器(pMDI)
吸入器をプッシュし、エアゾール状になった薬剤を吸入します。
加圧式定量噴霧式吸入器(pMDI)のメリット
- 吸入する力が弱いご高齢の方でも、吸入しやすいです。また、専用のスペーサーという吸入補助器具を使用することができます。
- 声がかすれにくいです。
加圧式定量噴霧式吸入器(pMDI)のデメリット
- 吸入回数が1日2回(朝・夜)で1回あたり2~4吸入必要です。
- 吸入器のプッシュと、吸気(すいこみ)を同調させる必要があります。
こちらも日本喘息学会のHPで吸入方法が公開されています。
日本喘息学会
喘息の管理目標
最後に『みなみ堀江クリニックの喘息治療』では、
- 症状のコントロール
- 経時的な呼吸機能低下の抑制
- 喘息関連の死亡リスクを低下させる
- 治療による副作用を最小にする
を達成し、健康な生活を維持するために「決められた時間帯に、決められた回数を吸入する」「症状が無くなっても吸入を勝手にやめない」ことが最も大切ですので、疑問点などありましたらお気軽にご相談ください。