脂質異常症の原因・症状・治療法をわかりやすく解説

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脂質異常症

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最終更新日:2025.09.05

脂質異常症の原因・症状・治療法をわかりやすく解説

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脂質異常症とは?〜気づかないうちに進行する"サイレントキラー"〜

脂質異常症とは、血液中のコレステロールや中性脂肪(トリグリセリド)の量が基準値を逸脱した状態のこと。特にLDL(悪玉)コレステロールが高すぎる(140mg/dL以上 → 高LDL血症)、HDL(善玉)コレステロールが低すぎる(40mg/dL未満 → 低HDL血症)、または中性脂肪が多すぎると診断されます(中性脂肪:150mg/dL以上 → 高トリグリセリド血症)。

この疾患の問題点は、ほとんどの人が自覚症状がないまま進行し放置すると動脈硬化を発症し、心筋梗塞や脳梗塞など命に関わる重大な疾患を引き起こす可能性があることです(サイレントキラーと呼ばれています)。定期健診で数値に異常が見つかっても、「痛くもかゆくもないし、まぁ大丈夫だろう」と放置されがちです。ですが、放置することで血管に脂質が蓄積し、動脈硬化が進行しプラークと呼ばれる塊が血管壁に形成されます。これは心筋梗塞や脳梗塞といった致命的な疾患の引き金になる恐れがあるため、早期発見と早期治療が重要です。

特に中高年層では加齢によって代謝が低下し、脂質異常症のリスクが高まります。今、無症状だからといって安心せず、早めの対策が患者さまの健康寿命の延伸につながります。

脂質異常症の診断基準(空腹時採血)

LDLコレステロール(悪玉)

  • 基準値:140mg/dL以上
    診断名:高LDLコレステロール血症
  • 基準値:120〜139mg/dL
    診断名:境界域高LDLコレステロール血症

HDLコレステロール(善玉)

  • 基準値 : 40mg/dL未満
    診断名 : 低HDLコレステロール血症

トリグリセライド(中性脂肪)

  • 基準値 : 150mg/dL以上
    診断名 : 高トリグリセライド血症

Non-HDLコレステロール(総コレステロール−HDL)

  • 基準値 : 170mg/dL以上
    診断名 : 高non-HDLコレステロール血症

高LDLコレステロール血症:動脈硬化の最大リスク因子です。

低HDLコレステロール・高トリグリセライド:HDL(善玉コレステロール)は血管から余分なコレステロールを回収する働きがあります。高トリグリセライドの状態では、HDLが分解・代謝されやすくなり、HDL低下を来しやすくなります。高トリグリセライドとHDL低値の組み合わせは、いわゆる 「動脈硬化リスクが非常に高い脂質プロファイル」 とされます。特に糖尿病やメタボリックシンドロームの方に多く、心筋梗塞・脳梗塞リスクが上昇します。

脂質異常症の原因は生活習慣?遺伝?

脂質異常症の主な原因は、食生活の乱れ・運動不足・喫煙・過度な飲酒などの生活習慣によるものです。脂っこい食事や甘いものが多く、外食中心の生活は、悪玉コレステロールや中性脂肪を増やす一因になります。

加えて、ストレスや睡眠不足もホルモンバランスを乱し、代謝機能を低下させるため、脂質異常を招きやすくなります。

さらに、遺伝的な要因も見逃せません。特に「家族性高コレステロール血症」などは、若いうちから発症するケースもあり、健診での早期発見が重要です。

また、糖尿病や甲状腺機能の異常といった他の疾患が背景にある場合もあります。「若い頃と同じ食事・生活で問題ない」と思い込まず、年齢とともに体質が変わっていることを意識しましょう。中高年期は、脂質の蓄積が加速する"分岐点"です。

症状はほぼなし?〜"放置の先"に待ち受ける危険性〜

脂質異常症は、無症状で徐々に動脈硬化が進行していきます。だからこそ怖い病気ともいえます。「何も感じないから平気」と放置していると、血管が硬くなり(動脈硬化)、ある日突然、心筋梗塞や脳卒中を引き起こす可能性があります。

特に中高年では、動脈硬化の進行が早く(女性ホルモンの減少、高血圧、糖尿病、脂質異常症、肥満、喫煙などの危険因子が加齢と複合的に影響するため)、狭心症や脳血管障害につながるリスクが高まります。定期的な健診で「LDLコレステロールが高め」「中性脂肪が多め」と言われたら、それは"黄色信号"。放置は危険ですので、内科受診をおすすめします。

体が悲鳴を上げるのではなく、静かに進行していくのが脂質異常症の特徴。だからこそ、予防(生活習慣の改善)が極めて重要であり、必要な場合は治療を行うことが重要です。「今は元気だから」と先送りするのではなく、「今だからこそできる対策」を始めることで、将来の健康寿命に大きな差が生まれます。

脂質異常症はどうやって診断される?〜血液検査の見方と注意点〜

脂質異常症の診断には、主に血液検査が用いられます。重要な項目は、以下の3つの項目:

  • LDL(悪玉)コレステロール
  • HDL(善玉)コレステロール
  • 中性脂肪(トリグリセリド)

それぞれの数値には基準値が設定されており、健診では「総コレステロール」だけに目が行きがちですが、LDLとHDLのバランスや、TGの値も重要です。

また、食事直後の検査では中性脂肪の値が上がりやすくなるため、検査のタイミングも重要です。中高年層の患者さまは「まだ大丈夫」「年相応だから」と楽観せずに、医師のアドバイスを元に今後の健康管理を見直す必要があります。

脂質異常症の治療法とは?〜無理なく続ける"改善の習慣"〜

脂質異常症の治療法は、大きく分けて「生活習慣の改善」と「薬物療法」の2つに分かれます。

食事療法

脂質や糖質の過剰摂取を控え、食物繊維・青魚・オリーブオイルなどの良質な脂を取り入れることが推奨されます。
日本動脈硬化学会は、動脈硬化のリスクを減らす食事として「The Japan Diet」を提唱しています。これは、減塩を基本とした日本食の食材を活かし、主食・主菜・副菜をバランスよく組み合わせるスタイルです。具体的には、以下のような構成を目指します。

  • ご飯や全粒穀物などの主食
  • 魚・豆・野菜を中心とした主菜、副菜
  • 塩分は控えめに
  • 豆類、野菜、海藻、発酵食品を積極的に摂取

これにより、LDLコレステロールやトリグリセリドの改善が期待されます。
「いきなり玄米・サラダ生活へ!」と極端になる必要はありません。まずは1日1食、脂質の少ないメニューに切り替えるなど、無理のないスタートが重要です。

運動療法

  • 脂質異常症の改善には中等度強度の有酸素運動を毎日30分以上行うことが推奨されています。週3日以上、できれば毎日継続するのが理想的です。
  • 運動種目としては、ウォーキング、速歩、水中歩行、スロージョギング、サイクリング、社交ダンス、ステップ運動など、大きな筋肉を使うものが有効です。
  • 毎日続けるのが難しい場合も、10分ずつなど短時間に分けて積み上げて計30分以上にすればOK。
  • 内臓脂肪を減らす目的では、より長時間(1日60分以上)の運動が推奨されます。

これらの運動療法を行うことで、中性脂肪(トリグリセリド)の減少・善玉コレステロール(HDL)の増加効果が多くの研究で報告されています。
また、運動は脂質代謝の改善だけでなく、抗炎症作用や免疫機能の向上といった多彩な効果ももたらします。これらは脂質異常症や動脈硬化予防にも重要な影響を持ちます。

中高年層では「膝や腰が痛くて運動できない」と感じる方も多いですが、無理に走る必要はありません。ウォーキングやストレッチ、家庭でできる軽い筋トレなど、"続けられること"を軸に選びましょう。

薬物療法

まずは先述した生活習慣改善が原則です。しかし、重症度やリスクに応じて薬物治療が早期に検討されます。「薬に頼るのは不安...」「一度始めたら一生飲み続けなきゃいけない?」と感じるかもしれませんが、生活習慣を改善(食事療法や運動療法)することで薬を減らす、あるいは中止できる可能性もあります。自分に合ったペースを大切にしましょう。

脂質異常症の薬物療法~代表的な薬の種類と特徴~

スタチン(Statins)

  • LDL-Cを強力に低下させる第一選択薬。特にアトルバスタチン、ピタバスタチン、ロスバスタチンなどの"ストロング型"が高い効果を発揮します。
  • 冠動脈疾患などの二次予防では、最大耐用量のストロングスタチンを早期に開始することが推奨されます
医薬品名

メバロチン、リポバス、ロスバスタチン、アトルバスタチンなど

副作用と注意点

胃不快感、便秘、下痢、発疹、そう痒感、紅斑、脱毛、倦怠感、頭痛、筋肉痛など

エゼチミブ(Ezetimibe)

  • スタチンによるLDL-C低下が不十分な場合に、追加併用する薬として用いられます。特に心血管イベントリスクが高い患者で効果が期待できます。
  • 急性冠症候群(ACS)後に早期に併用することで、再発リスク低減が報告されています。
医薬品名

ゼチーア(エゼチミブ)など

副作用と注意点

便秘や下痢などの消化器症状がみられることがあります。

フィブラート(Fibrates)

  • 主に中性脂肪(TG)が高値、または低HDL-Cを伴う場合に用いられます。スタチンに比べ、LDL-Cの低下は限定的ですが、TGやHDL-Cの改善に効果があります。
  • スタチンとの併用でより総合的な脂質改善効果が得られるケースもありますが、横紋筋融解症などのリスクがあるため注意が必要です。
医薬品名

ベザトールSR、ベザリップ、リピディル、トライコア、パルモディアなど

副作用と注意点

筋肉痛、脱力感、肝機能障害、消化器症状(吐き気、食欲不振、腹痛など)、発疹、かゆみ、胆石症、膵炎など

EPA製剤

主に高脂血症や閉塞性動脈硬化症の治療に使用される医薬品で、魚油に含まれるエイコサペンタエン酸(EPA)を主成分とする製剤です。EPAは、血液をサラサラにする効果や血管の弾力性を保つ効果があるとされ、血栓予防や動脈硬化の改善に役立つとされています。

医薬品名

エパデール、ロトリガなど

副作用と注意点

発疹、かゆみ、貧血、悪心、腹部不快感、下痢、腹痛、胸やけなど

PCSK9阻害薬

  • スタチン+エゼチミブでも十分なLDL-C低下が得られない高リスク患者に対して選択される注射製剤です。

どの薬にも副作用の可能性がありますが、正しく管理すればリスクは低減できます。

副作用が現れた場合でも、多くは薬剤の変更や一時中止で対応可能です。また、服用開始前に肝機能などをチェックし、定期的にフォローアップしていきます

薬剤については、血液検査での数値や家族歴、他の持病との兼ね合いから、最適な薬剤を選びます。
中高年の方のなかには「薬を始めたら一生手放せなくなるのでは?」と心配する方も多いですが、生活習慣の改善と並行して数値が安定すれば、減薬や中止も可能な場合があります。
コレステロール値が気になる患者さまは、大阪市西区の『みなみ堀江クリニック』にご相談ください。

日常生活で気をつけたいこと〜脂質異常症と付き合うためのヒント〜

脂質異常症を予防・改善するには、「日々の生活習慣を見直すこと」が重要です。たとえば、コンビニや外食での食品選びを見直すことで、脂質や糖質、塩分の摂取量を減らすことが可能です。揚げ物や糖質の過剰な摂取は控え、汁物は減塩、白米の量は控えめに。可能なら一品だけでも野菜や魚などを加える工夫が効果的です。

また、ストレスの影響も見逃せません。睡眠不足や過労、心理的ストレスはホルモンバランスに影響を与え、脂質代謝を乱す原因になります。忙しい日々の中でも、適度な運動を取り入れていきましょう。

脂質異常症に関してよくあるご質問

脂質異常症とはどんな病気ですか?

血液中のコレステロールや中性脂肪が基準値を超えた状態を指します。放置すると動脈硬化が進み、心筋梗塞や脳卒中のリスクが高まります。早期発見・治療が重要です。

症状はあるのでしょうか?

ほとんどの人は自覚症状がありません。自覚症状がほとんどないにもかかわらず、放置すると動脈硬化を来たし、心筋梗塞や脳梗塞など命に関わる重大な疾患を引き起こす可能性があるため、サイレントキラーと呼ばれています。

食事や運動だけで改善できますか?

軽度の場合は、生活習慣の見直しだけで十分改善可能です。食物繊維の多い食品を積極的に取り入れることや適度な運動が有効です。ただし、数値が高い場合や生活習慣の見直しでも改善しない場合は薬物療法が必要になることもあります。

薬を使うと一生飲み続けることになりますか?

生活習慣が改善されて目標値を維持できれば、薬の量を減らしたり中止できる可能性もあります。

予防するにはどうすればいいですか?

バランスの取れた食事、禁煙、適度な運動、ストレス管理が基本です。血のつながったご家族の方に心疾患や脳血管障害のある方は特に注意が必要です。定期的なの健康診断も早期発見のために重要です。

まとめ

脂質異常症は、放置すれば数年後、動脈硬化や心疾患・脳血管障害などの致死的な疾患を来す可能性があります。中高年という人生の折り返し地点で、健康との向き合い方を見直すことは、「将来の自分」への最大の贈り物です。

小さな一歩が、大きな変化を生みます。まずは健診の結果を見直すことから始めてみませんか?あなたの健康は、あなた自身が守れるのです。

健康診断で異常を指摘された患者さま、生活習慣病が気になる患者さまは、大阪市西区の『みなみ堀江クリニック』にご相談ください。患者さまの健康維持のサポートをさせて頂きます。

【著者 / 医師名】南 和宏

資格
  • 医学博士
  • 日本呼吸器学会 呼吸器専門医
  • 日本呼吸器外科学会 呼吸器外科専門医
  • 日本外科学会 外科専門医
  • 日本がん治療認定医機構 がん治療認定医
  • 肺がんCT検診認定機構 肺がんCT検診医
  • 日本結核・非結核性抗酸菌症学会 認定医
  • 難病指定医
  • 大阪市身体障害者福祉法指定医(呼吸機能障害)
  • 緩和ケア研修会終了
専門分野

呼吸器・アレルギー疾患

最終更新日:2025.09.05

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